ペットボトルのキャップが開けにくい、雑巾が絞れない、瓶の蓋を開けるときに激痛が走る…。
そんな親指の付け根の痛みに悩んでいませんか?
それは単なる突き指や腱鞘炎ではなく、「母指CM関節症(ぼしシーエムかんせつしょう)」かもしれません。
特に40代以降の女性に多く見られるこの病気は、放置すると変形が進み、日常生活に大きな支障をきたします。今回は、母指CM関節症の「病態」や「治療法」、そして症状を悪化させる隠れた原因と、それを防ぐ「対策」「リハビリ」「サポーター」の重要性について解説します。
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母指CM関節症の「病態」とは?なぜ痛むのか
親指の付け根、手首に近い部分にある関節を「CM関節(第1手根中手骨関節)」と呼びます。 ここは、親指が他の指と向き合って「つまむ」「掴む」といった複雑な動作をするために、非常によく動く関節です。



軟骨のすり減りが主な原因
CM関節は、鞍(くら)のような形をしており、骨同士が噛み合っています。しかし、長年の使用や加齢によって、クッションの役割をしている「軟骨」がすり減ってしまいます。
軟骨が減ると、骨と骨が直接ぶつかり合い、炎症(滑膜炎)が起きて痛みが生じます。これが母指CM関節症の正体です。 進行すると、関節がグラグラに不安定になったり(亜脱臼)、骨のトゲ(骨棘)ができたりして、親指が変形してしまうこともあります。
なぜ女性に多い?
この病気は圧倒的に女性に多く発症します。その理由として、以下の2点が挙げられます。
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ホルモンバランスの変化: 閉経後に女性ホルモン(エストロゲン)が減少することで、関節や腱が腫れやすくなったり、脆くなったりするため。
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関節の形状: 女性のCM関節は男性に比べて小さく、適合性が浅い傾向にあり、負担がかかりやすいため。
母指CM関節症の「治療法」
治療の基本は、痛みをコントロールしながら関節の変形を防ぐことです。大きく分けて「保存療法」と「手術療法」があります。
1. 保存療法
初期~中期の段階では、手術をしない治療が選択されます。
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安静・生活指導: 手の使い方を見直し、負担のかかる動作を避けます。
- 手技療法:周辺筋肉のリリースや鍼治療、リハビリを行います。
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薬物療法: 湿布や塗り薬、痛み止めの内服で炎症を抑えます。
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関節内注射: 痛みが強い場合、ステロイド剤などを関節内に注射して炎症を鎮めます。
※装具療法(サポーター): 関節を固定して安静を保ちます。
当院では2をおこない、状態によってはドクターに連携し他の治療と並行して行っていくようになります。
2. 手術療法
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痛みが増し、程度が強い場合は手術の可能性もあります。
見落としがちな悪循環「AMI」とは?
母指CM関節症の治療において、知っておいていただきたい重要な概念があります。それが「AMI(Arthrogenic Muscle Inhibition:関節原性筋抑制)」です。
少し専門的な話になりますが、簡単に言うと「関節が痛むと、脳がブレーキをかけて筋肉を働かなくさせてしまう反射」のことです。
痛みで筋肉がサボり始める
関節に痛みや腫れがあると、私たちの体は防御反応として、その周囲の筋肉(親指を支える筋肉など)への神経指令を抑制(インヒビション)してしまいます。 つまり、「痛いから動かさないでおこう」と脳が無意識に筋肉のスイッチをオフにしてしまうのです。
「AMI」が招く負のスパイラル
これが続くと、どうなるでしょうか?
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CM関節が痛む。
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AMIが起こり、親指を支える筋肉がうまく働かなくなる。
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関節を筋肉で支えられなくなり、関節がさらにグラグラになる(不安定性の悪化)。
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不安定だから、余計に骨同士がぶつかって痛みが増す。
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さらにAMIが強まる…
この悪循環を断ち切るためには、単に痛みを我慢して動かすのではなく、「関節を安定させて、安心して筋肉が働ける環境」を作ってあげることが不可欠です。
そこで有効なのが「鍼治療」と「サポーター」です。
AMIの悪循環を断つ「鍼治療」の役割
鍼治療は、単に「痛みを散らす」だけではありません。AMIによってサボってしまった筋肉の機能を取り戻すために、非常に重要な役割を果たします。
1. 痛みの信号をブロックし、脳のブレーキを外す
AMIの根本原因は「痛み」です。鍼治療には鎮痛効果があり、脳に伝わる痛みの信号を抑制します。 痛みが和らぐことで、脳が筋肉にかけていた「動かすな」というブレーキ(抑制)が解除されやすくなり、リハビリの効果が出やすい状態を作ります。
2. 筋肉と神経に直接アプローチして「スイッチ」を入れる
AMIの状態にある筋肉は、神経の伝達が悪くなっています。 鍼で直接筋肉や神経を刺激することで、血流を改善させるだけでなく、眠っていた神経回路を活性化させます。「筋肉よ、動きなさい」というスイッチを入れ直すようなイメージです。
3. 「かばって硬くなった筋肉」を緩める
親指がうまく動かないと、腕や肩など、他の筋肉が無理をして代償しようとします。 鍼治療でこれらの過剰に緊張した筋肉を緩めることで、手全体のバランスを整え、CM関節への負担を減らすことができます。
「サポーター」の役割
そこで非常に重要な役割を果たすのが、装具(サポーター)です。
サポーターの2つの効果
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関節の安定化: サポーターで関節のグラつきを外側から抑えることで、関節を安定させます」
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安静と保護: 無意識に行っている「ねじる」「強く握る」といった負担のかかる動きを制限し、炎症を沈静化させます。
選び方のポイント
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硬性(ハード)タイプ: 痛みが強い時期や、仕事でどうしても手を使わなければならない時は、金属やプラスチックの支柱が入ったしっかり固定できるタイプ。
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軟性(ソフト)タイプ: 症状が落ち着いてきた時期や、家事などで手の感覚を大切にしたい時は、伸縮性のある素材で優しくサポートするタイプ。
まとめ:痛みと上手に付き合うために
母指CM関節症は、放置すればするほど「AMI」による筋力低下と関節の不安定化が進んでしまいます。 「歳のせいだから仕方がない」と諦めず、早めに受診することが大切です。
そして、日々の生活では「サポーター」を上手に活用して、頑張り続けている親指の関節を休ませてあげてください。 痛みの悪循環を断ち切り、快適な日常生活を取り戻しましょう。
また当院でも関節症の悪化を防ぎ生活での痛み緩和のためにサポートさせていただきます。