筋紡錘とⅠa・Ⅰb・αγ運動ニューロンから理解する「伸長反射と拮抗抑制」
鍼灸治療や手技療法で「筋の張り」や「力の入り方」を変えたいとき、
その裏側では必ず 筋紡錘・ゴルジ腱器官・α運動ニューロン・γ運動ニューロン などの回路が動いています。
今回の記事ではイメージがしづらい
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Ⅰa・Ⅰb求心性線維とγ運動ニューロン、錘内筋・錘外筋の役割
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α–γ連関(アルファガンマ連関)
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伸長反射
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拮抗抑制(相反抑制)
を学生や初学者に向けて整理していきたいと思います。
なかなか頭を悩ませる分野のお話になりますが、これらは鍼だけではなく様々な治療においての理論的な土台にもなる部分です。
① Ⅰa・Ⅰb・γ運動ニューロンと錘内筋・錘外筋

錘外筋:実際に力を出す“本体の筋肉”
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・いわゆる筋肉そのもの(外側筋線維)
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・α運動ニューロンからの指令で収縮 → 関節が動く
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・例:上腕二頭筋、ハムストリングスなど、見えて触れる部分
錘内筋:筋の中に埋まった“センサー付きの細い筋”
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・筋紡錘の中にある細い筋線維
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・ここに Ⅰa線維・Ⅱ線維 が巻き付いていて、
「どれくらい伸びているか」「どれくらいの速さで伸びたか」を感知する
① Ⅰa求心性線維:伸びる“速さ”に敏感なセンサー
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・筋紡錘から脊髄へ向かう太い感覚線維
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・特に “急に伸ばされた”ときに強く反応
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・膝蓋腱反射などの 伸長反射の主役
②. γ運動ニューロン:筋紡錘の“感度調整役”
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・錘内筋の両端につながる運動ニューロン
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・筋紡錘がゆるまないように、適度に張りを保つ 役割
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・動作中も「今どれくらい伸びているか?」をIaが正確に報告できるように、裏でずっと調整している
③ Ⅰb求心性線維:張力を見張るゴルジ腱器官からのセンサー
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・腱の中にある ゴルジ腱器官 から出る感覚線維
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・「張力が強すぎると筋や腱が危ないよ」という情報を脊髄に送る
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・自原抑制(Ib抑制) に関わる
② α–γ連関(アルファガンマ連関)

①. α運動ニューロン:錘外筋を収縮させる“本命の運動指令”
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・αMNが働く → 錘外筋が縮む → 実際に関節が動く
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・例:肘を曲げる、膝を伸ばす、立ち上がる など
問題点:筋が縮むと筋紡錘が“ゆるんで”センサーが鈍る
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・筋全体が縮むと、筋紡錘も一緒にたわんでしまう
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・そのままだと Ⅰa線維が「伸びてる/縮んでる」を正確に検出できなくなる
② γ運動ニューロンが同時にONになり、筋紡錘を張り直す
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・γMNが錘内筋の端をキュッと引き締めることで、
筋紡錘が 常に“ピンと張った状態”を維持 できる
③・④. Ⅰa線維は伸長→運動中も情報が正確に保たれる
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・たとえ筋が大きく動いていても、
「今どれくらいの長さか」「どれくらいの速さで変化しているか」が Ia 経由で脊髄に届き続ける
⑤. 筋収縮
出力(α)とフィードバック(Ia)がズレない → 滑らかな運動が成立
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・箸、ペン、スマホ操作のような細かい動き
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・姿勢保持やスポーツ動作の微調整
は、この α–γ連関が働いているからこそ可能になります。
③ 伸長反射
① 筋が急に伸ばされる
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例:
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膝蓋腱を“コツン”と叩かれたとき
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段差につまずきかけてふくらはぎが急に伸びたとき
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② 筋紡錘が「急な伸び」を感知し、Ⅰa線維が強く発火
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・伸長の速さに特に敏感
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・速い伸びほど、Ⅰaの発火頻度が大きく増える
③Ⅰa線維が脊髄前角のα運動ニューロンを直接興奮させる
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・“センサー → 司令塔(α)”までのショートカット回路
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・ここが伸長反射の反応の速さの理由
④ その筋が自動的に収縮して、伸び過ぎを防ぐ
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・急に伸ばされた筋自体が「勝手に」縮もうとしてくれる
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・これが 関節保護・転倒防止のための自動ブレーキ
④ 拮抗抑制(相反抑制)

上記は動きの“滑らかさ”に直結する 拮抗抑制(相反抑制) の回路を表現しています。
① 主働筋が働こうとするとき、まず筋紡錘(Ⅰa)が活動
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・例:肘を曲げたい → 上腕二頭筋の筋紡錘が活動
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Ⅰ・a線維が脊髄へ「動きますよ」という情報を送る
Ⅰa線維は、主働筋のα運動ニューロンを興奮させる
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・上腕二頭筋αMNがON → 二頭筋が収縮 → 肘が曲がる
②. 同時に、拮抗筋側(例:上腕三頭筋)の抑制性介在ニューロンをONにする
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・Ⅰa線維は 拮抗筋αMNにブレーキをかける介在ニューロンも興奮させる
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・ここが「拮抗“抑制”」の中枢
③・④. 拮抗筋のαMNが抑制され弛緩
主働筋の動きを邪魔しなくなる
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三頭筋が“勝手に伸ばそうとする力”を弱めてくれる
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結果として、二頭筋がスムーズに働ける
なかなかイメージしづらい部分だとは思いますが、これらは治療の土台となる重要な部分でもあります。
今後のブログでは、今回のイラストで解説した回路をベースに治療方法なども紹介して行けたらと思います。
