はじめに
膝の全十字靱帯や半月板の手術をした後に、なぜか力が出ない。筋肉はあるのに、なぜか動かせない。このような症状で悩んでいる方がいらっしゃいます。
これは「関節原性筋抑制(AMI)」という状態かもしれません。関節を傷めると、神経の指令がうまく伝わらなくなることがあります。筋肉自体は問題ないのに、神経の伝達が悪くなっている状態です。

このケースでは、プロアスリートの方が、半月板手術後4年経っても左足の筋力が戻らないという悩みを抱えていました。腰の神経根にアプローチする「エコーガイド下腰椎神経根はり低周波療法」により、筋力が回復した症例をご紹介します。
患者情報
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職業:プロアスリート
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年齢:20代
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性別:男性
history
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4年前:左膝の半月板を手術
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手術後:左足の力がなかなか戻らない状態が続く
主訴
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左足の力が弱い
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片足でスクワットすると、股関節や膝の内側が痛む
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運動を続けると、だんだんハムストリングが緊張してくる
初診時の状態
筋力の状態
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膝を伸ばす力:やや弱い(正常の約80%) 内側広筋
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股関節を外に回す力:やや弱い 閉鎖筋
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股関節を後ろに伸ばす力:かなり弱い 大内転筋
動きの状態
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膝が90度までしか曲がらない
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片足で膝を曲げると、膝が内側に入ってしまう(ニーイン)
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膝の前の筋肉(内側広筋)が弱い感じがする
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運動を続けると、お尻から膝の後ろ(ハムストリング)が硬くなる
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運動を続けると、左膝の周りが痛くなり、力が弱くなる
エコー観察の結果
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筋肉自体はそれほど萎縮していない
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左膝の上10cmあたりが少し細く見えるが、大きな問題ではない
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→ 筋肉の問題ではなく、神経の伝達の問題と判断
施術方針
何が原因か?
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推測:膝半月板手術後の「関節原性筋抑制(AMI)」
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問題の場所:腰の神経(L3、L4神経根)
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L3:もも裏の内側の筋肉(大内転筋)、股関節を外に回す筋肉(閉鎖筋)
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L4:太ももの前の筋肉、太ももの内側の筋肉をコントロール
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L5:太ももの後ろ(ハムストリング)の緊張にも関与している可能性
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なぜ神経の問題なのか?
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関節を傷めると、神経の伝達がうまくいかなくなることがある
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筋肉自体は問題ないのに、脳からの指令がうまく届かない状態
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施術方法
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施術内容:エコーガイド下腰椎神経根はり低周波療法(L3・L4)
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施術の目的:神経の伝達を正常化し、筋肉に指令が届くようにする
施術後経過
初回施術後
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即座に変化:筋力が回復した
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施術直後から、力が出るようになった
2週間後
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ベッド上での検査:
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股関節を外に開く力:回復傾向
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膝を伸ばす力:回復傾向
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しかし、まだ残っている問題:
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片足スクワットをすると、ニーインする
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神経のスイッチを入れる鍼治療と、筋トレを継続する必要がある
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今後の方針
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はり治療の継続:神経の伝達を正常化する
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運動療法の併用:
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ウエイトトレーニングで全身の筋力強化
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なぜエコーガイド下腰椎神経根はり低周波療法が効果があったのか?(考察)
このケースの特徴
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手術後4年経っても症状が続いていた
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筋肉自体はそれほど萎縮していない
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神経の伝達の問題が主な原因
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腰の神経にアプローチすることで、即座に筋力が回復
「関節原性筋抑制(AMI)」とは?
関節を傷めると、神経の伝達が悪くなる
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関節損傷→水が溜まる・痛み→異常な情報が脳に送られる→なるべく動かないように力を出しにくい指令が出る
本来は怪我した場所を守るための反応だったが、怪我が回復しても、神経の伝達が元に戻らず、神経のスイッチが入らないから、トレーニングしても力が入らない状態
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どの神経が問題か?
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L3:もも裏の内側の筋肉(大内転筋)、股関節を外に回す筋肉(閉鎖筋)
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L4:太ももの前の筋肉、太ももの内側の筋肉
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L5:太ももの後ろ(ハムストリング)の緊張(二次的な可能性)
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なぜ大内転筋の筋力が回復すると、ハムストリングの緊張が取れるのか?
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大内転筋が弱いと、ハムストリングが過剰に働いてしまう
この治療法の意義
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即座に効果が出る:神経の伝達が正常化されると、すぐに筋力が回復する
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筋肉の問題ではない:筋肉自体は問題ないのに、神経の伝達が悪いだけの場合がある
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手術後の後遺症にも有効:手術後、長期間症状が続いている場合でも、神経にアプローチすることで改善する可能性がある
まとめ
このケースから分かったこと
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膝の手術後、長期間筋力が戻らない場合、神経の伝達の問題かもしれない
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筋肉自体は問題なくても、神経の伝達が悪いと力が出ない
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腰の神経(L3、L4)にアプローチすることで、即座に筋力が回復することがある
治療のポイント
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神経の伝達を正常化するはり治療
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弱い筋肉を強化する運動療法
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両方を組み合わせることで、より良い結果が期待できる
同じような症状で悩んでいる方へ
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手術後、なかなか筋力が戻らない
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筋肉はあるのに、力が出ない
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このような症状がある場合、神経の伝達の問題かもしれません
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はり治療で神経にアプローチすることで、改善する可能性があります
用語解説
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AMI(関節原性筋抑制):関節を傷めると、神経の伝達が悪くなり、筋肉に力が出なくなる状態
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神経根:背骨から出る神経の根本の部分
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L3、L4:腰の3番目、4番目の神経(太ももの前の筋肉などをコントロール)
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ニーイン:膝が内側に入ってしまう動き
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エコーガイド下腰椎神経根はり低周波療法:超音波(エコー)で確認しながら、腰の神経根にアプローチするはり治療